公益通報者保護法の重要性と内部通報制度の導入方法【基礎編】



公益通報者保護法をご存知でしょうか?

公益通報者保護法とは、企業による法令違反行為を通報した従業員や役員が、解雇や降格などの不当な扱いを受けることがないよう、保護を図るための法律です。
この法律は、従業員300人以上の企業に対し、内部公益通報体制の整備などを義務付けています(従業員300人以下の企業は努力義務)。したがって、この制度を導入していない企業は、法律違反として消費者庁による措置の対象となり、企業名が公表される場合もあるため、注意が必要です。

本コラムでは、公益通報者保護法が求める内部通報制度の意義と、導入方法についてわかりやすく解説します。

1.なぜ内部通報制度が必要なのか?

企業が組織内の不正行為を放置すると、取引先や消費者からの信頼を失い、最悪の場合、経営者や従業員が職や地位を失う危険性があります。実際、数多くの企業不祥事が、従業員による外部への通報によって発覚し、大きな批判に晒されることとなった企業も少なくありません。不祥事が発覚した企業では、内部通報制度が存在していなかったり、その存在が従業員に知られていなかったりすることが問題となっていました。

その一方で、民間企業における不正発覚の手段として最も多いのが内部通報であった、という消費者庁による調査結果もあり、多くの企業が、不正防止のため、内部通報制度を積極的に活用しています。

従業員が安心して不正を通報できる環境を整備することは、企業にとって非常に重要です。


「内部通報制度の整備は義務だから」と、形式的に導入するだけでなく、積極的に活用することは、情報が外部に漏れる前に不正に対処し、企業と従業員を守ることへつながります。

2.通報対象と通報者の保護

公益通報者保護法では、すべての法令違反が通報対象となるわけではなく、「国民の生命、身体、財産その他の利益の保護」に関わる法律に違反する犯罪行為や重大な違法行為が対象となります。通報の対象となる行為としては、横領や残業代の不払いなどがあります。


なお、内部規程違反などの適用対象外の通報については、労働関係法令が適用されます。
例えば、セクシャルハラスメントやパワーハラスメントについては、企業に防止措置が義務付けられており、その一環として、通報を受け付けることができるような、相談窓口の設置や相談者の秘密厳守が必要とされています。
従業員だけでなく、取引先や消費者からの信頼を確保するためにも、内部規程違反などの通報を積極的に受け付ける姿勢が重要です。

また、保護の対象となる通報者は、企業の従業員や役員であり、退職後1年以内の従業員も含まれます。

通報者を守ることは、内部通報が機能するための絶対条件です。通報を理由とする解雇や不当な扱い、損害賠償請求、通報者を特定する情報の漏洩は禁止されています。通報者探しを行ったり、通報を妨害したりすることも防止すべきです。
これらの事項を内部規程で明確に定め、周知した上で、通報があった場合には、調査の結果や是正について可能な範囲で通報者に通知することが求められます。

3.内部通報制度の導入手順

では、具体的にどのように内部通報制度を導入すればよいか、以下の導入手順を説明いたします。

STEP1:経営幹部による制度導入の検討

経営幹部を招集し、制度の導入について検討します。

STEP2:内部通報対応の責任者と窓口設置場所の選定

内部通報を受け付け、調査を実施し、是正に必要な措置をとる担当部署と責任者を決めます。
ここで重要なのは、従業員が心理的に通報しやすい部署や担当者を選ぶことです。
さらに、経営幹部が不正に関与している可能性について考慮すると、経営幹部から独立させた体制(例えば、窓口を専門会社や外部の弁護士に委託する体制)を作ることも検討が必要です。

STEP3:従事者の指定及び研修の実施

内部通報窓口の担当者を、従事者として指定します(従事者指定書の交付)。
従事者は、通報者を特定する情報について守秘義務を負い、同情報を漏らした場合には、刑事罰(30万円以下の罰金)が科されます。
そのため、従事者に制度の理解を深めてもらうためにも、従事者に対する研修は必須といえます。

STEP4:内部規程、マニュアル及び受付票の作成

内部規程、対応マニュアル及び内部通報の受付票を準備する必要があります。
当事務所においても、内部通報制度導入支援のため、これらの書式等をご準備しておりますので、お気軽にご連絡ください。

STEP5:従業員・役員等への周知

内部通報制度(窓口の設置場所や内部規程の内容等)について、パンフレットの配布、会議やメールでの周知をする等、従業員・役員に積極的に周知しましょう。

4.まとめ

本コラムでは、内部通報制度の重要性と導入方法を掲載しました。
内部通報制度は導入すれば終わり、ではありません。通報が1件もない場合、従業員が通報することに不安を感じているから通報がないのかもしれません。「通報がないから問題なし」と考え、制度を放置するのではなく、経営幹部は、従業員に対して、通報者の保護を約束し、「間違っていると思うことがあれば、ぜひ声をあげてほしい」と呼びかけることも大切です。

内部通報制度を適切に導入し、運用することで、企業の不正を未然に防ぎ、企業価値を守ることができます。
公益通報者保護法を正しく理解し、内部通報制度の整備を進めることで、持続可能な経営を目指しましょう。

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