ガバナンスとコンプライアンスの真の価値とは?
「コンプライアンス」と「ガバナンス」は、組織の健全な運営と社会的信頼の基盤です。
本コラムでは、これらの概念の真の価値を、意味の解説と具体的な取り組みを通じてわかりやすく説明いたします。
「コンプライアンス」と「ガバナンス」とは?
まずは、これらの一般的な意味と企業や組織における意味について説明いたします。
「コンプライアンス(英語表記:compliance)」とは、一般的に「法令遵守」を意味します。
しかし、企業においては「法令遵守」にとどまらず、以下の広範な遵守事項を含まれます。
- 法令遵守: 国や地域の法律を守ること。
- 企業規範の遵守: 業務規定や社内ルールなど、企業内部で定められたルールを守ること。
- 社会規範の遵守: 社会常識や倫理に基づく行動。
- 企業倫理・社会的責任の遵守: 企業理念や社会的責任を果たす行動、持続可能な経営を実現するための努力。
「ガバナンス(英語表記:governance)」とは、「統治・統制・管理」を意味します。
企業においては、「企業や組織の管理体制」を指し、「コーポレートガバナンス」という用語で用いられることが多いです。
この管理体制は、企業や組織における意思決定の仕組みやプロセスを通じて、経営の透明性や公平性を保ち、組織全体が適切に機能するよう整えるための体制です。
したがって、ガバナンスは、コンプライアンス(法令遵守)を保つための管理構造といえ、ガバナンスが効果的に機能していることで、企業や組織は持続的な成長と発展を遂げることが可能となります。
これを読むと、皆様は「コンプライアンス」について、どういうイメージを持たれましたか?
多くの人は「やらなきゃいけないこと」という義務的なマイナスイメージを持たれたかもしれません。
しかし、実際には、コンプライアンスは「やった方がいいこと」とプラスに捉えることであり、組織にとって大きなメリットがあります。
「コンプライアンス」と「ガバナンス」の効果
では、「コンプライアンス」と「ガバナンス」を効果的に機能させることで、どのような効果が期待できるでしょうか。
- 効果1:損失の回避
- まず、コンプライアンスは、組織をリスクから守る役割を果たします。
コンプライアンスが欠如していれば、不正や法令違反が発覚した際に、監査や警察の介入を受ける可能性が高まります。これにより、組織は大きな損失を被るリスクがあります。
しかし、コンプライアンスを徹底させていれば、こうした損失を未然に防ぐことができます。
- 効果2:社会的信頼と売上の向上
- つぎに、コンプライアンスがしっかりしている組織は、売上も上がりやすいという点に注目しましょう。
コンプライアンスが徹底されている組織は、顧客や取引先からの信頼が高まり、長期的に見て売上が向上する傾向があります。
特に、誠実な対応や透明性の高い企業は、消費者からの共感を得やすく、結果的に販売戦略が成功しやすくなります。
コンプライアンスを義務として受け止め、億劫ながら対応するのではなく、「やった方がいいこと」と捉え積極的に取り組むことで、組織の成長を加速させることができます。
- 効果3:企業全体で未来を作る
- ガバナンスとコンプライアンスは、単なるルールではなく、組織の未来を作る重要な要素です。
これらがしっかりと機能している組織は、効率が上がり、イノベーションが生まれ、結果として業績も向上します。
また、これらの取り組みが浸透している企業ほど、従業員の満足度が高く、ハラスメント防止にも効果があります。
したがって、最終的には、これらの取り組みが損失を回避し、組織全体の生産性を向上させ、持続的な成長につながるのです。
- 効果4:優秀な人材の定着と獲得
- コンプライアンスがしっかりしている組織は、誠実で透明性の高い運営という点で従業員からの信頼を得やすくなります。そして、従業員のモチベーション向上は、離職率の減少(人材の定着)につながります。
さらに、優秀な人材の採用にも影響します。
近年、SNSやインターネットの普及により、企業の実態が外部に漏れやすくなっています。求職者は、就活サイトや企業のホームページだけでなく、社員(退職者含む)等による口コミサイトも利用して、あらゆる角度から応募先企業の評判を調査しています。
そのため、コンプライアンスに欠ける企業は、優秀な人材から敬遠される可能性が高く、逆に、誠実で透明性の高い企業は、優秀な人材を引き寄せやすくなります。
具体的な取り組み
では、これらの効果を得るために、企業としての重要な取り組みは何でしょうか。
企業や組織全体が不正を行わないように仕組みを整えることが、ガバナンスの基本です。
したがって、単に「不正をするな」と言うだけではなく、実際に不正が起きないような環境を作ることが重要です。
ここで大切なのは、建前と本音の一致です。
建前では「不正はダメだ」と言いながらも、組織の本音は「売上を上げるためなら多少のごまかしは仕方がない」というような、誤ったメッセージが従業員らに伝わらないようにする必要があります。
これを防ぐためには、組織運営の中で建前を排し、本音で行動する文化を育てることが求められます。
また、人が不正を犯す契機は、認知神経科学の実験からも明らかです。
人はもともと善良であっても、誘惑に負けることがあります。そして、一度不正を行うと、その行為が次第にエスカレートしていきます。
脳の働きによって、最初は罪悪感を抱くものの、不正を繰り返すうちにその感覚が鈍くなってしまうのです。
このようなリスクを避けるためには、不正を誘惑するような状況を取り除き、不正が起こりにくい仕組みを整えることが不可欠です。
では、不正を防ぐためにどのような取り組みをしたらよいか、具体的な例としては以下のものがあります。
コンプライアンス強化
- 社内研修を通じた法令遵守意識の向上。
- 内部規定や倫理規範を整備し、社員が日常的に遵守する環境を構築。
- 内部通報制度(ホットライン)の設置による不正の早期発見。
ガバナンス強化
- 経営層による監視機能の向上。
- 取締役会や監査役会の強化。
- リスク管理部門の設置や、コンプライアンス委員会の設置。
- 業務プロセスの見直しと、企業内部や外部の監査によるチェック体制の強化。
これらのうち、内部通報制度については、別のコラムで解説しております。
内部通報制度は、従業員が不正を発見した際に、上司や外部の弁護士などに匿名で報告できる仕組みです。
この制度があることで、不正が隠蔽されることなく、早期に対処できる可能性が高まります。
これにより、組織全体のリスクを大幅に軽減することができます。
まとめ
「コンプライアンス」と「ガバナンス」は、組織を守り、成長させるための不可欠な要素です。
これらを形式的なものに終わらせず、真の価値を理解し、本音で運営し、実際に機能する仕組みを整えることが、健全な組織運営の鍵となります。
今日からでも、 これらの取り組みを見直し、強化していくことをお勧めします。
次回のコラムでは、認知神経科学的アプローチから、ガバナンスの重要性について解説いたします。