ガバナンスの重要性と不正防止のための仕組みづくり

前回のコラムでは、ガバナンスとコンプライアンスについて解説いたしました。 今回のコラムでは、前回少し触れた認知神経科学的アプローチから、ガバナンスの重要性について解説したいと思います。

前回のコラムのおさらい

企業や組織を運営する上で、不正を防ぐことは非常に重要です。
ただ、「不正をするな」と言うだけでは、現場にその意図が十分に伝わらず、時には「少しくらい嘘をついてもいいから、売上を上げるべきだ」といった誤解を招くこともあります。
ガバナンスとは、組織内での意思決定や行動が適切に行われるように管理・統制する仕組みのことを指します。経営者だけでなく、従業員一人ひとりが不正を起こさないようにするためのルールやプロセスを整えることが重要です。

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1.人はなぜ不正を犯すのか?

人は本来、善良であっても誘惑に弱い生き物です。

そして、一度不正を行うと、2回目、3回目と不正がエスカレートしやすくなります。
これは、認知神経科学の研究でも明らかにされています。

認知神経科学者のガレット氏とその研究チームは、被験者の行動が報酬体系によってどのように変わるかを調べる実験を行いました。 この実験は、2人1組の被験者に「アドバイザー」と「アドバイスを受ける人」の役割を与え、硬貨の入った瓶を見て、その硬貨の合計金額を当てるというものでした。

硬貨の合計金額を当て、報酬を山分けするため、二人は協力することになっていますが、実は、アドバイスを受ける人はこの実験のおとり役で、被験者は、アドバイザーだけです。
被験者であるアドバイザーには、複数の報酬体系が与えられていますが、その報酬体系のうちには「硬貨の合計金額の誤差が大きいとき、相手の報酬は少なくなるが、自分の報酬は多くなる。」といった、「ペアの相手が損をすれば、自分が得をする。」ような、裏切りにより利益を得られるようなものが含まれています。

さあ、事件の結果はどうなったでしょうか。

実験回数を重ねていくうち、アドバイザーが、自分が利益を得る状況では、ペアの相手に不利なアドバイスを行う(利己的で不誠実な行動を取る)傾向が高まりました。
また、このようなアドバイザーによる不誠実な行為が、次第にエスカレートしていくことも観察されました。

さらに、この実験では、被験者の脳の動きも、磁気共鳴機能画像法(fMRI)を用いて観察されました。
これによって、利己的な行動を取る(不正を行う)と、脳の扁桃体(感情的反応をコントロールする部分)にシグナルが走り、いうなれば「罪悪感を抱く」ことがわかっています。
しかし、驚くべきことに、アドバイザーが利己的で不誠実な行動を繰り返すことで、このシグナルが徐々に減少することが確認されました。

この実験は、利己的で不誠実な行動が繰り返されると、その行動に対する脳の反応が鈍くなり、次第に不正に対する抵抗感がなくなっていき、罪悪感や良心の呵責が弱まることを示しています。
言い換えるならば、人は不正を繰り返すことで「規範意識」が鈍化し、次第に不正に対する抵抗感がなくなっていくのです。 不正行為がエスカレートしていく背景には、脳のシグナルが関係していたわけです。

2.不正を防ぐための仕組みづくり

この実験は、人は誘惑に弱く、不正を繰り返すことで、倫理的な基準が低下する可能性を示唆しています。だからこそ、企業や組織では不正を未然に防ぐための仕組みを整えることが重要です。

まず、経営者が「不正は絶対に許されない」という強いメッセージを発信し、組織全体に浸透させることが必要です。
また、内部監査や内部通報制度を整備し、従業員が安心して不正を報告できる環境を作ることも効果的です。これらにより、小さな不正でも早期に発見し、対処することが可能となります。

3.まとめ

ガバナンスの強化と不正防止のための仕組みづくりは、企業の健全な運営に欠かせません。
不正を許さない、という本音を組織全体で共有し、具体的な対策を講じることで、組織の信頼性を高め、長期的な成功につなげることができます。
今一度、自社のガバナンス体制を見直し、より効果的な仕組みを導入してみてはいかがでしょうか。

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