11月1日施行フリーランス保護法:企業が知っておくべき新ルールと対策
フリーランスとして働く人は年々増加しています。しかし、その一方で、従来の労働法や下請法ではフリーランスの方々に対する十分な保護が行き届いていないことが課題とされてきました。
そこで制定されたのが、このたび2024年11月1日に施行された、「フリーランス保護法」です。この法律は、フリーランスの立場を守り、健全な取引環境と就業条件を整えることを目的としています。これにより、フリーランスと業務委託契約を交わす企業には、新たな義務が課せられ、今までの契約や支払いの慣行にも見直しが求められることになります。
このコラムでは、フリーランス保護法について企業が知っておくべき新ルールと対策についてわかりやすく解説します。
1. フリーランス保護法とは?
「フリーランス保護法」は、正式名称「フリーランス事業者間取引適正化法」として制定されました。この法律は、「特定受託事業者」、すなわち従業員を使用(※)していない個人事業主や代表者のみで法人化したケース(いわゆる「法人成り」)を「フリーランス」と定義しています。対象となる業種は、美容師や建設業の職人、コンサルタントやライターなど幅広く含まれます。
フリーランス保護法は、従業員を使用している発注事業者(フリーランスに業務を委託する企業)とフリーランスとの間の「業務委託」に係る事業者間取引に適用されます。この法律により、フリーランスとの適正な取引を維持するために、発注事業者側には取引条件の明示等の義務が課されます。
「従業員を使用」とは?
週20時間以上かつ31日以上の雇用見込みがある労働者を雇用することを指し、派遣労働者の受け入れも含まれます。ただし、同居親族のみを使用する場合は該当しません。
下請法との違い
この新法の背景には、フリーランスにも下請法に類似した保護が必要だという考えがありました。
下請法は、主に中小企業の下請企業を保護するための法律で、資本金や取引額の要件(資本金が1,000万円超の企業にのみ適用)により、すべてのフリーランスに適用されるわけではありません。
今回のフリーランス保護法では、資本金の要件が設けられず、小規模法人や個人事業主も対象とし、クライアントワーク全般を保護するように適用範囲が拡充されています。 また、下請法が他社から受けた業務の再委託に限定していたのに対し、フリーランス保護法は自社で利用するサービスの委託にも適用される点で広範な保護を提供しています。
2. 企業(発注事業者)に求められる義務
フリーランス保護法により、フリーランスに対して、発注事業者には義務が課せられますが、その内容は発注事業者が満たす要件に応じて異なります。
発注事業者が該当する条件は以下の通りです。
(ア)従業員を使用していない業務委託事業者である場合
(イ)従業員を使用している特定業務委託事業者である場合
(ウ)さらに、条件(イ)の場合には、業務委託期間の長さ
以下の表では、これらの条件に応じた発注事業者の義務内容をまとめています。
義務項目の詳細については、次で説明します。
義務①:書面等による取引条件の明示
企業はフリーランスと契約する際に、以下の事項を明示する必要があります。
この明示は書面または電磁的な方法で行わなければならず、口頭のみの契約は認められません。
また、明示した内容を後で変更する場合、変更事項を速やかに通知する義務もあります。
明示すべき事項
- 発注事業者とフリーランス、それぞれの名称
- 業務委託をした日(業務委託することを合意した日)
- 業務の内容(品目、品種、数量、規格、仕様等を明確に記載※)
- 納期または役務の提供を受ける日
- 納品場所または役務の提供を受ける場所
- 検査完了期日(給付の内容について検査する場合)
- 報酬額および支払期日
- 現金以外の方法で報酬を支払う場合は、支払方法に関すること
※フリーランスに成果物の著作権を譲渡させる場合には、契約時にその旨を明示しておく必要があります。後から「著作権を譲渡してほしい」と要求することは不当な利益要求として、禁止事項に該当する可能性があります。
義務②:報酬支払期日の設定・期日内の支払
フリーランスへの報酬は、納品日または業務完了日から60日以内のできる限り短い期間で支払う必要があります。
支払期日を具体的に特定することが求められており、「60日以内」や「2か月以内」など、あいまいな表現では不十分です。
企業が納品物を検査する場合も、支払い期日は「検査完了日」ではなく「納品日」から60日以内ですので、これを踏まえて管理する必要があります。
発注事業者がフリーランスに再委託した場合、報酬の支払期日は元委託支払期日から30日以内のできる限り短い期間内に設定することが例外的に認められていますが、この場合、通常の明示事項に加えて、再委託であること、元委託者の名称や元委託業務の対価の支払期日、この3つの事項を明示しなければなりません。
義務③:禁止行為
フリーランスに対し、1か月以上の業務委託をした場合、発注事業者には次の7つの行為が禁止されています。
注意しなければならないのは、以下の行為についてフリーランスの合意や了承があったとしても、また発注者が違法性を意識していなくても、これらの行為は法律違反になるということです。
⑴ 受領拒否 | フリーランスに責任がないのに、納品物や情報成果物の受取を拒否する行為。 |
⑵ 報酬の減額 | フリーランスに責任がないのに、業務委託時に定めた報酬額を引き下げて支払う行為。 |
⑶ 返品 | フリーランスに責任がないのに、納品物や情報成果物を引き取らせる行為。 |
⑷ 買いたたき | 通常よりも著しく低い報酬での契約を強いる行為。 |
⑸ 購入・利用強制 | 正当な理由がないのに、企業の指定する製品やサービスを強制的に購入・利用させる行為。 |
⑹ 不当な経済上の利益の提供要請 | 例えば、業務に関係のない作業を無償で求める行為。 |
⑺ 不当な給付内容の変更・やり直し | フリーランスに責任がないのに、契約内容を変更してフリーランスに追加の負担を強いる行為。 |
義務④:募集情報の的確表示
発注事業者が、広告等により、フリーランスを募集する際、次の義務が課せられます。
⑴ 虚偽の表示の禁止
⑵ 誤解を生じさせる表示の禁止
⑶ 正確かつ最新の表示の義務
具体的には、業務内容や報酬、契約条件、期間、報酬の支払方法などについて、適切かつ明確に記載する必要があります。
また、掲載情報に変更が生じた場合には、速やかに更新し、応募者との認識のズレを減らすための措置が求められます。
義務⑤:育児介護等と業務の両立に対する配慮
6か月以上の業務委託について、フリーランスが妊娠、出産、育児や介護と業務が両立できるよう配慮をしなければなりません(6カ月未満の業務委託については、努力義務)。
義務⑥:ハラスメント対策に係る体制整備
セクハラやマタハラなどのハラスメントに対して、フリーランスの就業環境が不快なものとならないよう、企業は環境整備の義務があります。
ハラスメントに該当する行為は、契約解除などの法的措置の対象になることもあるため、注意が必要です。具体的な体制整備については、「4.フリーランス保護法施行に向けた企業の対応」で説明いたします。
義務⑦:中途解除等の事前予告・理由開示
6か月以上の継続的な業務委託において、発注事業者が契約解除または更新をしない場合、解除日や契約満了日から30日前までにフリーランスにその旨を予告する義務があります。加えて、予告期間内にフリーランスが解除理由を求めた場合、発注事業者は遅滞なくその理由を開示しなければなりません。
予告や理由開示は、書面、ファックス、電子メール等の手段で行う必要があります。
3.フリーランス保護法の罰則
フリーランス保護法に違反した場合、事業者には次のような指導や罰則が科される可能性があります。
発注事業者はこれらの罰則を理解し、法令遵守を徹底することが重要です。
⑴ 行政指導 | 改善を促す指導が行われ、事業者には問題点の確認や改善計画の策定が求められることがあります。 |
⑵ 立ち入り検査等 | 罰則ではありませんが、行政庁が検査のために必要である場合には、立ち入りを含めた検査が実施されることがあり、業務に重大な支障が生じる可能性があります。 |
⑶ 勧告、命令、公表 | 違反が悪質な場合、違反事業者へ勧告や命令が下され、違反事業者の名称や違反内容が公表されることがあり、信頼低下や株価などへの影響が考えられます。 |
⑷ 罰金 | 重大な違反には罰金が科される場合があり、法人だけでなく違反行為に関与した個人(役員や従業員)も対象になることがあります。 |
4.フリーランス保護法施行に向けた企業の対応
フリーランス保護法が施行にあたり、発注事業者には以下のような対応が求められます。
企業の対応①:契約の見直し
業務委託契約の内容を再確認し、フリーランス保護法に準拠した契約条項を整備します。具体的には、委託内容や支払条件の明確化、著作権譲渡に関する取り決め、契約書のテンプレート修正が必要です。
支払期日が60日以内に設定されているか確認し、違反があれば速やかに改定します。期日管理の徹底も重要なポイントです。
企業の対応②:フリーランスとの適正な協議体制の整備
報酬条件の変更依頼を受けた際には、書面などで誠実に協議し、安易な報酬引き下げを防ぐ体制を構築します。
企業の対応③:ハラスメント対策に係る体制整備
企業が行うべきハラスメント対策には、方針の明確化と周知、相談体制の整備、迅速で適切な事後対応、再発防止が含まれます。
1
ハラスメント禁止方針の明確化・周知
まず、ハラスメントを禁止する方針を明確にし、社内および業務委託の担当者へ周知します。
2
相談窓口の設置
次に、フリーランスが相談できる窓口を設け、迅速な事実確認や被害者保護に努める体制を整備します。
3
再発防止のための研修・啓発活動の実施
さらに、必要に応じて行為者に対する懲戒措置を講じ、再発防止のための研修や啓発活動を実施します。
最後に
フリーランス保護法は、フリーランスの立場を守りながら、企業にも誠実な取引の重要性を問いかけています。
この法律を遵守することで、フリーランスの労働環境が向上し、企業にとっても信頼性を高める大きなチャンスとなります。結果として、フリーランスと企業が互いに成長し合える持続可能な関係を築くことができます。
今こそ、フリーランス保護法を正しく理解し、健全で公正な取引を実践することで、強固なパートナーシップを築いていきましょう。
【参考】
公正取引委員会フリーランス法特設サイト
https://www.jftc.go.jp/freelancelaw_2024
内閣官房、公正取引委員会、中小企業庁、厚生労働省策定
「フリーランスとして安心して働ける環境を整備するためのガイドライン」