問題社員の対応マニュアル
業績や企業規律に悪影響を及ぼす一部の社員は問題社員と呼ばれ、能力不足や社会人としてのモラルが欠如しているという特徴があります。
労働法による強い労働者保護は、簡単に地位を奪われることはないという安心感のもと、労働者が長期的に成長しながら働くことを期待するものです。
しかし、このような制度を逆手にとった、会社や周囲の労働者に損害を与えることもためらわない問題社員の出現が、社会問題となっています。
問題社員による問題行動は、協調性の欠如、無断欠勤、頻繁な遅刻、職場離脱、機密情報の漏えい、業務命令違反、ハラスメント行為など多岐にわたります。
今回は、問題行動の中でも、頻繁に欠勤や遅刻をする、いわゆる勤怠不良の社員への対応を取り上げます。
体調不良による欠勤や遅刻は、個人の健康を守ると同時に、他の社員への感染リスクを回避するためにも、適切な対応といえます。また、家庭の事情による遅刻等も避けられないケースがあります。
しかし問題は、遅刻や欠勤が繰り返されるにもかかわらず、これらが単なる連絡や届出だけで済まされ、業務への支障や他の社員への負担増大といった事態が放置されている場合です。
ルーズな勤怠管理が常態化すると、社員の業務態度が緩み、仕事のクオリティは低下し、やがて組織全体のモチベーションやモラルの低下を招く可能性があります。
だからといって、遅刻や欠勤を繰り返す社員に対し、即座に懲戒処分を行うのも危険です。不適切な対応は、訴訟リスクを伴うため、企業にとっても大きなリスクとなり得ます。
さらに、体調不良による勤怠不良が過重労働やハラスメントといった深刻な問題に根ざしている場合、それを放置することで取り返しのつかない重大な事態を引き起こしかねません。
企業には、勤怠不良の社員に対して、個々の事情に配慮しながらも、公正で一貫性のある対応を取ることが求められています。
このコラムでは、勤怠不良の社員、特に正当な理由なく欠勤や遅刻を繰り返す社員に焦点を当てて、その対応をわかりやすく解説します。
対応マニュアル
STEP
勤怠の把握
頻繁に欠勤や遅刻をする社員がいる場合、まずその勤怠状況を詳細に把握することが必要です。
また、出社していても体調不良により業務を行えず、しばしば席を離れるといった状況もあります。このような状況を適切に評価するためには、他の社員からの日頃の勤務状況や態度に関する聴き取りも重要です。
STEP
面談
次に、当該社員との面談を通じて、欠勤や遅刻の理由を確認します。
必ずしも面談から始めるのではなく、まずは声かけから始めるのも良い方法です。
この際、寝坊や体調不良など個人的な問題に加えて、仕事に関連する悩みやストレスも原因として考慮することが重要です。
威圧感を与えず、建設的な対話を促進することで、問題解決を図りましょう。
STEP
会社側の対応を検討する
面談での聞き取りを受けて、会社側の対応を検討します。
CASE1: 体調不良による勤怠不良である場合
「体調不良なら仕方ない」と放置せず、産業医の面談や医療機関への受診を勧めることも重要です。特にメンタルヘルスの問題については、早期診断などの対策が必要とされます。また、就業規則上の要件を満たしていれば、休職命令の発令も検討してみましょう。
一方で、残念ながら、社員が体調不良を装っている可能性も考えられます。
そのため、社員の勤怠記録や勤務態度に日頃から注意を払い、問題の本質を見極めることが大切です。不必要な疑念を避けるため、あらかじめ就業規則に診断書などの提出義務等の措置を設けることも効果的です。
CASE2:職場環境・ハラスメントによる勤怠不良が続いている場合
欠勤や遅刻が職場環境やハラスメントに起因している場合は、迅速に証拠収集や聞き取り調査を実施することが必須です。
これは、社員の健康と安全を保護する企業の義務を遂行するためであり、この責務を怠ると、安全配慮義務違反により法的責任や損害賠償請求のリスクが発生する可能性があります。
CASE3: 正当な理由がない勤怠不良の場合
欠勤や遅刻の理由が正当でない場合(寝坊や二日酔いなど生活習慣に起因する問題)、あるいは社員が理由を明確にしない場合は、STEP4に移行してください。
必要に応じて、弁護士に相談し、不適切な対応によるトラブルを防ぎましょう。
STEP
段階的な注意・指導~軽い懲戒処分や配置転換
面談の結果、正当な理由なく遅刻や欠勤を繰り返している社員は、問題社員として認識し、段階的に注意および指導を行っていきます。
不当解雇に関する訴訟では、遅刻や欠勤の回数よりも、労使協定や就業規則に基づいて会社がどのように対応し、指導や懲戒措置を取ってきたかが重視されます。
そのため、指導の過程を詳細に記録する「指導記録」を整備することが重要です。訴訟リスクを回避するために、弁護士に相談することをお勧めします。
- STEP4-1:口頭注意(戒告)
- 初めに、口頭での注意を行います。
指導は職場の規律維持には欠かせないものですが、パワハラにならないように上司には慎重な対応が求められます。
他の社員の前で、大声で叱責するなどの過度な行為は、パワハラに該当するリスクがあります。
一度の注意で改善が見られない場合は、指導を繰り返し行います。
- STEP4-2:軽度の懲戒処分
- それでも改善が見られない場合は、軽度の懲戒処分(けん責、減給など)を行います。
ここでも重要なのは、指導記録を残すことです。
- STEP4-3:配置転換(人事異動)
- 配置転換は、従業員の職務内容、所属部署、勤務地などを変更する人事異動です。
配置を改め、新たな上司のもとで働くことにより、問題社員の意識が変わることを期待することが可能なのであれば、この配置転換も手段の1つとして検討できます。
STEP
退職勧奨・解雇
STEP4を経ても問題行動が改善されない場合、その社員は組織にとって重大な損失となり得ます。 問題社員の辞めさせ方には、二つの方法があります。
- STEP5-1:退職勧奨
- まず退職を勧奨し、従業員に任意で退職を促します。
退職勧奨の進め方としては、STEP4のような行動改善の機会を与え、周囲の意見を聞き、説得材料を集めることが重要です。
退職が合意に至ったら、適切に合意書を作成します。
- STEP5-2:解雇
- 退職勧奨にも応じず、改善もしない場合、最終手段として解雇処分としますが、労働基準法に基づき、正当な理由と適切な手続きが必須です。
勤怠不良による解雇は、段階的な指導や懲戒手続きを経て合理的と判断された場合にのみ行うことができます。また、その事由が就業規則に明確に定められている必要があります。
また、勤怠不良による解雇の一つの目安としては「出勤率80%未満」が挙げられます。労働基準法では8割以上の出勤率が有給休暇取得の条件となるため、この範囲内での欠勤は通常許容されることが多いです。例えば、月20日の出勤日数を前提とした場合、4日以上の欠勤は、解雇を検討する対象になり得ます。
さらに、過去の判例として、始末書の提出や上司の警告後も、半年間で事前の届出のない24回の遅刻と14回の欠勤を繰り返した社員に対して、就業規則所定の懲戒解雇事由に該当すると判断された事例があります(東京プレス工業事件)。
フレックスタイム制における遅刻・欠勤
多くの企業が導入するフレックスタイム制については、社員が自由に出退勤時間を設定できる一方で、その自由が過度に行使されることで、社内規律やモラルの低下の懸念が指摘されています。
この制度の下では、総労働時間を満たしていれば、申告時間に遅刻しても通常は遅刻には該当しません。ただし、「コアタイム(必ず出勤しなければならない時間帯)」を設定することで、この時間に出勤しない場合は、遅刻とみなされます。コアタイムの設定は必須ではありませんが、設定することで、フレックスタイム制の柔軟性を保ちながらも、企業が求める勤務時間の確保と秩序を保持することができます。
また、繰り返し遅刻する社員に対しては、フレックスタイム制の適用除外が可能ですが、これを行うには労使協定の締結や就業規則への明記が必要です。
就業規則の重要性
就業規則の整備が、問題社員への対応をスムーズかつ適切に進めるために非常に重要であることに、皆様もすでに気づいているかと思います。
欠勤や遅刻といった問題に対して、公平で透明な対応を実施するためには、ただ一時的に対処するだけでは不十分です。
「ノーワーク・ノーペイの原則」に基づき、給与の控除や懲戒処分、休職命令など適切な手続きを進められるよう、これらの手続きを就業規則で明確に定めておくことが不可欠です。
最後に
正当な理由なく遅刻や欠勤を繰り返す問題社員には、適切な指導や退職勧奨など慎重な手続きが求められます。
このプロセスでは、人物や感情、階級や地位に左右されることなく、一貫性をもって対応を進めることが不可欠です。
すべての社員が公平に評価され、明確なルールでしっかりと整備された環境が、社員一人ひとりの安心感と信頼を生み出し、企業全体の健全な成長を支える基盤となるのです。
このような体制を通じて、いかなる局面においても揺るがない組織を築き上げていきましょう。
加えて、経営陣や上司の皆様には、勤怠不良の社員や休職者の業務にも対応しながら、献身的に働いている社員の存在を決して見過ごしてほしくありません。
勤怠不良の社員や休職者の業務を誰かが肩代わりしなければならないとしても、それを特定の社員に無言の圧力として一方的に押し付けることは避けなければなりません。
その重圧は、彼らの心身の健康を静かに、しかし確実に蝕む原因となります。
自身の業務と、勤怠不良の社員や休職者の業務に追われ、限界を超えた努力を強いられることで、疲労が累積し、体調を崩しても無理をして出勤する事態に至る可能性が高まります。
だからこそ、勤怠不良や休職中の社員を管理するだけでなく、他の社員の負担を軽減するためのサポートやきめ細やかな配慮が不可欠です。
問題を放置せず、必要に応じて産業医や弁護士など専門家の助言を受けながら、会社全体の健全な運営と職場の秩序を保つことを目指しましょう。