労働条件明示の新ルールと企業の対応について

2024年4月1日から、「労働基準法施行規則」および「有期労働契約の締結、更新及び雇止めに関する基準」の改正が施行されました。    

労働基準法第15条第1項により、企業は、労働契約の締結に際し、すべての従業員に対して賃金、労働時間その他の労働条件を明示しなければなりません。この明示義務に違反した場合は、罰則(30万円以下の罰金)があります。
そのため、皆様の会社でも、これまで従業員に対して労働条件通知書を交付されてきたかと思います。
今回の改正では、この労働条件の明示について、その明示事項やタイミングに関して新たなルールを適用しました。

本コラムでは、改正内容の概要と企業が対応すべき具体的な事項について解説しますが、その前に、先ほど出てきました「労働条件通知書」について、説明させていただきます。   

 

労働条件通知書について

労働条件通知書は、企業が従業員に対し、労働契約締結や更新の際に、労働条件の明示として、交付する重要な書類です。

労働条件通知書に似た書類に雇用契約書がありますが、労働条件通知書は法的に義務付けられているのに対して、雇用契約書は法的な作成義務はありません。
どちらの書類も、労働条件の確認やトラブル防止において重要な役割を果たす書類ですが、ニュアンスが異なります。労働条件通知書は、企業から従業員への一方的な【通知】であり、従業員の記名押印は必要ありません。
一方、雇用契約書は、双方の合意を示す【契約書】で、双方が記名押印して保管します。
労働条件通知書と雇用契約書は別々に発行することが基本ですが、内容が重複するため、両者を一つにまとめ、双方の記名押印欄を設けた「労働条件通知書兼雇用契約書」として発行することも可能です。

労働条件の明示事項と明示の方法は以下のとおりです。

今回の改正では上記明示事項に、新たに加えるべき事項が増えました。
これは、2024年4月1日以降に採用される者だけでなく、既存の社員にも適用されますので、労働条件が変更された際には、新しいルールに基づいて改めて明示しなければなりません。

それでは前置きが長くなりましたが、新しい労働条件明示のルールとそれに伴う企業の対応について、以下解説させていただきます。

新ルール1: 就業場所・業務の変更の範囲の明示

企業は、有機契約労働者を含むすべての労働者に対して、契約締結および契約更新時に、就業場所と業務の「変更の範囲」を明示しなければなりません。    

企業の対応

  • 労働条件通知書において、就業場所や業務の変更が想定される範囲を具体的に記載してください。
    なお、この新ルールは、配置転換や在籍型出向等の場所や業務が想定されていますので、一時的な変更(出張や臨時的な応援業務等)は記載する必要はありません。
例)就業場所(雇入れ直後)福岡支店
(変更の範囲)会社の定める営業所
例)従事すべき業務
(雇入れ直後)営業
(変更の範囲)会社内での全ての業務
  • 就業場所・業務の変更の範囲は、書面の交付により明示しなければなりません。
    ただし、従業員が希望した場合は、電子メール等により明示することも可能です。
  • 就業場所の変更の範囲は、転勤の可能性だけでなく、テレワークを行うことが想定される場合は、テレワークが可能な場所(従業員の自宅等)を明示してください。
例)就業場所(雇入れ直後)福岡支店及び労働者の自宅
(変更の範囲)会社の定める場所(テレワークを行う場所を含む)

新ルール2:更新上限に関する明示

⑴ 更新の上限
有期労働契約においては、契約の締結および契約更新時に、「更新上限」(通算契約期間または更新回数の上限)がある場合、その内容を明示する義務が新たに追加されました。   

⑵ 更新上限の短縮
当初の契約内容から更新上限を短縮する場合、その理由を従業員に事前に説明する必要があります。

企業の対応

  • 有期労働契約の締結と契約更新のタイミングごとに、更新上限を設定する場合はその内容を詳細に記載してください。
    例えば、「契約の更新回数は3回まで」など。
  • 更新上限は、書面の交付により明示しなければなりません。
    ただし、従業員が希望した場合は、電子メール等により明示することも可能です。
  • 更新上限を新設または短縮しようとする場合には、必ず事前に従業員に説明してください。
    この説明は、文書を交付して、個別面談により説明を行うのが基本ですが、わかりやすく説明すべき事項をすべて記載した資料を交付したり、説明会などで複数人に同時に行ったりすることも可能です。

新ルール3 :有期契約労働者に対する無期転換に関する明示

⑴ 無期転換申込機会
無期転換申込権が発生する契約更新のタイミングごとに、該当する有期労働契約の契約期間の初日から満了する日までの間、無期転換を申し込むことができる旨(無期転換申込機会)を書面により明示しなければなりません。

⑵ 無期転換後の労働条件
無期転換後の労働条件についても明示する義務が課されました。

⑶ 他の正社員等とのバランスを考慮した事項の説明に努める
無期転換後の労働条件に関する定めをするにあたり、他の通常の労働者(正社員等のいわゆる正規型の労働者及び無期雇用フルタイム労働者)との均衡を考慮した事項(例:業務の内容、責任の程度、異動の有無・範囲など)について説明するよう努めなければなりません。

企業の対応

  • 無期転換申込権が発生する際には、その権利を書面により明示し、無期転換後の労働条件も書面で提示してください。    
  • 無期転換後の労働条件については、他の通常の労働者(正社員等)との均衡を考慮し、その内容を十分に説明してください。
    この説明は、文書を交付して、個別面談により説明を行うのが基本ですが、わかりやすく説明すべき事項をすべて記載した資料を交付したり、説明会などで複数人に同時に行ったりすることも可能です。

まとめ

労働条件明示のルール改正に伴い、企業は労働契約の締結・更新に際しての対応を見直す必要があるだけでなく、就業規則の変更も必要になる場合もあります。

また、今回の改正は、ハローワークへの求人の申込み時にも適用されます。
求人広告のスペースが足りない場合には、「詳細は面談時にお伝えします」と記載することで、労働条件の一部を別のタイミングで明示することも認められています。
この場合、求職者と最初に接触する時点までにすべての労働条件を明示する必要があります。
なお、当初明示した労働条件が変更になる場合は、その変更内容を速やかに明示しなければなりません。

厚生労働省のサイトには、労働条件通知書のひな形がありますので、それらを活用したり、弁護士や社会保険労務士に相談したりして、労働条件の明示義務を適切に行い、トラブルの未然防止や労働者との信頼関係の構築を図りましょう。

参考サイト

厚生労働省 ~令和6年4月から労働条件明示のルールが改正されます~
https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_32105.html

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