材料費高騰で契約金額の変更はできる?事情変更の原則と契約実務上の注意点

近年、原材料価格の上昇、円安、物流コストの増加、一部資源の供給不足などが問題となっています。
これらを背景に、建設工事、製造委託、継続的取引などの場面で、「契約締結時に合意した金額では採算が合わない」「契約後に材料費が大幅に上がったので、代金を見直したい」という需要が生じています。

そこで民法上の「事情変更の原則」が注目されています。

それでは、原材料費が高騰した場合、事情変更の原則を理由として、当然に契約金額の増額や契約内容の変更を求めることができるのか。

結論からいえば、事情変更の原則が認められるハードルは低くありません。
単に「費用が上がった」「採算が悪化した」というだけでは、直ちに契約内容の変更が認められるわけではありません。もっとも、契約書の内容、価格変動の程度、当事者間の交渉経緯、業界慣行、リスク分担の定め方によっては、契約変更の交渉や法的主張を検討すべき場面があります。

事情変更の原則とは何か?

事情変更の原則とは、契約締結後に、その契約の基礎となっていた事情が、当事者の予見し得なかった事情によって大きく変化し、その結果、当初の契約内容に当事者を拘束し続けることが著しく不当となる場合に、契約の解除や契約内容の改訂を認める法理です。

契約は、いったん締結した以上、当事者が合意した内容に拘束されるのが原則です。しかし、契約締結後に社会経済情勢が大きく変わり、契約時には想定していなかったような極端な負担が一方当事者に生じる場合まで、常に当初の契約内容をそのまま維持しなければならないとすると、かえって信義公平に反する場合があります。

そこで、信義則(民法第1条2項)を根拠として、例外的に契約内容の変更や解除を認める余地があるとされてきました。

実は、事情変更の原則は、民法に明文で規定されている制度ではありません。民法改正の議論の中でも明文化が検討されましたが、濫用的な主張を招くおそれなどから、最終的には明文化が見送られています。したがって、判例や学説上整理されてきた要件を踏まえる必要があります。

事情変更の原則が認められるための要件とは?

一般に、事情変更の原則が認められるためには、次のような要件が必要とされています。

第一に、契約締結時に基礎とされていた事情が、契約締結後に変更したことです。単なる一時的な価格変動ではなく、契約の前提に影響するような事情の変化である必要があります。

第二に、その事情変更について、契約締結時に当事者が予見できなかったことです。例えば、ある程度の価格変動が通常予想される取引であれば、そのリスクは契約上織り込まれていたと評価されやすくなります。

第三に、その事情変更が、事情変更の原則を主張する当事者の責めに帰することのできない事由によって生じたことです。自社の見積ミス、調達判断の誤り、施工計画の不備などが原因で費用が増加した場合には、事情変更の原則を主張することは難しくなります。

第四に、変更後の事情のもとで、当初の契約内容に当事者を拘束し続けることが、信義則上著しく不当といえることです。ここが特に重要であり、単に利益が減った、赤字になったというだけでは足りず、契約上のリスク分担を超えるほどの著しい不均衡が生じているかが問題となります。

材料費高騰だけで契約金額の増額は認められるか?

材料費が高騰した場合に、事情変更の原則を根拠として契約金額の増額を求めることは、まったく不可能とはいえません。しかし、実務上、その主張が当然に認められるわけではありません。
特に、建設工事や製造委託のように、もともと資材価格や人件費の変動が一定程度想定される取引では、価格変動リスクをどちらが負担する契約だったのかが重視されます。固定金額で契約した以上、通常の範囲の価格変動は受注者側が負担する趣旨だったと評価されることも少なくありません。

他方で、契約締結後に、通常の価格変動の範囲を大きく超える急激な高騰が生じ、当事者が契約時にそのような事態を具体的に想定していなかったといえる場合には、事情変更の原則の主張や、少なくとも契約変更協議の法的根拠として検討する余地があります。

ただし、最高裁は、事情変更の原則を一般論として否定しているわけではないものの、具体的事案でその適用を認めることには慎重です。最高裁平成9年7月1日判決でも、契約締結後の事情変更について、予見可能性がないこと、帰責事由がないことが必要であると判断したうえで、具体的には事情変更の原則の適用を否定しています。

「材料費が上がったので、事情変更の原則により当然に増額できる」と考えるのは危険です。実際には、契約書の条項、価格高騰の程度、見積時点の状況、発注者との協議経過、代替調達の可能性、業界全体の価格動向などを総合的に検討する必要があります。

スライド条項や価格改定条項

事情変更の原則によらずとも、契約書に、資材価格や人件費が一定以上変動した場合に請負代金や委託料を変更できる旨の条項、いわゆるスライド条項や価格改定条項がある場合には、その条項に基づいて契約金額の変更を求めることができます。

公共工事の分野では、国土交通省直轄工事において、特定の工事材料の価格が高騰した場合に、工事請負契約書上の単品スライド条項に基づき請負代金の変更を行う運用があり、近年の資材価格の急激な高騰等を踏まえて運用ルールも改定されています。(国土交通省

民間取引でも、今後は契約締結時に、価格変動リスクをどのように分担するのかを明確にしておくことがますます重要になります。
例えば、
●一定の公的指数が一定割合以上変動した場合に協議を行う
●主要資材について価格変動分を一定の算定式で調整する
●協議が整わない場合の解除や納期変更の扱いを定める
といった条項が考えられます。

契約書にこのような条項がない場合でも、事情変更の原則や信義則、協議義務、下請取引・建設業法上の規律などを踏まえて交渉できる場合がありますが、明確な条項がある場合に比べると、交渉や立証のハードルは高くなります。

発注者側・受注者側で注意すべきポイント

事情変更の原則に関する法律の考え方は、契約改訂における交渉においても役立ちます。

代金の増額を求める側としては、まず、契約書に価格改定条項、スライド条項、協議条項、不可抗力条項などがあるかを確認する必要があります。そのうえで、どの資材が、いつ、どの程度上昇したのか、契約締結時にはどのような前提で見積もっていたのか、価格上昇が自社の責任によるものではないといえるのかを、資料に基づいて整理しておくことが重要です。
単に「材料費が高くなったので増額してほしい」と申し入れるだけでは、交渉上の説得力は十分とはいえません。見積書、発注書、仕入価格の推移、業界資料、公的統計、取引先からの価格改定通知などを整理し、契約時の想定を超える事情変更であることを具体的に説明する必要があります。

一方、代金増額を求められる側としては、増額に直ちに応じる義務があるとは限りません。
しかし、資材価格の急激な変動が客観的に認められる場合や、契約上協議義務が定められている場合には、誠実に協議する姿勢が求められることがあります。

また、価格変更を一切認めない対応を続けることで、受注の拒否、工事や納品の遅延、品質低下、契約解除、紛争化といったリスクが生じる場合もあります。取引継続や紛争予防の観点からも、慎重な対応が必要です。

まとめ

材料費高騰や資源不足により、契約締結後に当初の想定を超える負担が生じるケースは、今後も発生し得ます。そのような場合、事情変更の原則を根拠として契約金額の変更や解除を主張できる可能性はあります。

しかし、事情変更の原則は、契約の拘束力を例外的に修正する法理であり、裁判所がその適用を認めるハードルは高いと考えられています。

当事務所では、建設工事、製造委託、継続的取引契約などにおける材料費高騰・価格改定・契約変更に関するご相談をお受けしています。契約金額の変更交渉、契約書の見直し、価格改定条項の作成、取引先との紛争対応でお困りの方は、お早めにご相談ください。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です