【2026年12月1日施行】公益通報者保護法が改正!企業が見直すべきこと ―法改正と改正指針、企業が押さえる4つのポイント―

※本稿は、2026年8月27日時点で公表されている法令、法定指針、指針の解説及び消費者庁「公益通報者保護制度Q&A」に基づいています。

第1 2026年12月の改正で企業は何を確認すべきか

企業が対応すべき4つの改正ポイント

公益通報者保護法の一部を改正する法律が、2026年12月1日に施行されます。
今回の改正で、企業が確認すべき点は、主に以下の4つです。

①公益通報を理由とする解雇・懲戒への刑事罰
②通報後1年以内の処分に関する立証責任の転換
③フリーランスへの保護対象の拡大
④通報妨害・通報者探索の禁止

既に公益通報規程や通報窓口がある企業は、現在の仕組みとの違いを確認し、順に修正することになります。公益通報制度を未整備の企業は、国がこの制度を重要視していることに鑑み、整備を検討しましょう。

本稿では、消費者庁の資料等を踏まえて、今回の法改正における4つの重要なポイントを説明します。通報者探索と正当な事実調査をどのように区別するかなど、実務上判断しにくい問題についても解説します。

第2 改正法に対応するため、企業が確認すべき4つのポイント

2-1 公益通報と関係する解雇・懲戒は要注意

(1) 戒告やけん責も刑事罰の対象になり得る

今回の改正で特に注意すべきなのは、公益通報を理由とする解雇・懲戒に、直接の刑事罰が設けられたことです。違反行為をした者には、6月以下の拘禁刑または30万円以下の罰金が科される可能性があります。さらに、法人にも3000万円以下の罰金が科されます。

ここでいう懲戒は、懲戒解雇、出勤停止、減給といった重い処分に限られません。消費者庁もQ&Aにおいて、就業規則上の懲戒として行われるものであれば、戒告やけん責であっても刑事罰の対象になり得ると説明しています。

なお、公益通報を理由とする配置転換、人事評価上の不利益、賞与の減額なども禁止されます。ただし、今回新設された直接の刑事罰の対象は、解雇と懲戒処分に限られています。

(2) 処分を実質的に決めた担当者も処罰され得る

処罰の対象は、処分通知書に名前が記載された代表取締役だけではありません。消費者庁Q&Aによれば、処分を実質的に決定した者も、正犯となる可能性があります。また、稟議上の決裁権者、処分を起案した事業部門の担当者、人事部門の責任者なども、実際の関与の仕方によっては、正犯や共犯として責任を問われます。
もっとも、刑事罰である以上、故意が必要です。公益通報があったことや、公益通報を理由として処分することについて認識・認容していなかった者まで、直ちに処罰されるわけではありません。

(3) 中小企業にも刑事罰の規定は適用される

常時使用する労働者が300人以下の事業者について、内部公益通報対応体制の整備は努力義務です。しかし、だからといって、公益通報を理由とする不利益な取扱いの禁止や、解雇・懲戒に対する刑事罰まで適用されないわけではありません。

体制整備義務等を除き、企業規模による適用除外はないのです。したがって、公益通報の件数が少ない中小企業であっても、通報後の人事処分を従来と同じ感覚で進めることはできず、コンプライアンス上の注意が必要です。

2-2 通報後1年以内の解雇・懲戒は公益通報が理由であると推定される

(1) 企業側が、通報とは別の処分理由を立証する

改正法では、労働者が公益通報をした日から1年以内に解雇または懲戒を受けた場合、その処分は公益通報を理由とするものと推定されます

なお、行政機関や報道機関などへの外部通報の場合は、少し考え方が異なります。企業が外部通報を知ったうえで処分したときは、企業がその通報を知った日から1年間が対象になります。

従来は、原則として労働者側が「公益通報を理由として処分された」と主張し、立証する必要がありました。改正後は、これが逆になります。企業側が「処分は公益通報とは別の理由による」と十分に説明できなければ、公益通報を理由とする処分だったと認定される可能性があります。

(2) 推定の対象となる処分と通報者には限界がある

この推定規定が適用される処分は、労働者に対する解雇と懲戒です。配置転換、人事評価、賞与査定なども、不利益な取扱いとして禁止されていますが、これらには同じ推定規定は適用されません。
また、フリーランスや役員にも、この推定規定がそのまま適用されるわけではありません。

(3) 民事上の推定と刑事責任は区別する必要がある

なお、この立証責任の転換は、民事におけるものです。刑事責任についてまで、立証責任が転換されるわけではありません。刑事事件では、捜査機関や検察官が、公益通報を理由として解雇・懲戒をしたことや、故意があったことを立証します。

とはいえ、民事上の推定にすぎないから影響が小さい、ということではありません。民事の訴訟事件化すれば、懲戒処分の無効を主張されかねないからです。よって企業は、公益通報から1年以内の処分になるのであれば、懲戒処分を決めた時点の証拠によって、通報とは別の処分理由を説明できる状態を作っておく必要があります。

2-3 フリーランスを通報制度の利用対象者に加える

(1) 従業員を使用しない個人事業主や一人法人が対象となる

改正後は、公益通報者の範囲に、事業者から業務委託を受けている特定受託業務従事者、いわゆるフリーランスと、業務委託関係が終了してから1年以内のフリーランスであった者が加わります。
対象となるフリーランスの範囲は、フリーランス法の定義に従います。従業員を使用しない個人事業主のほか、他の役員がおらず、従業員も使用していない一人法人の代表者も対象です。業種の限定はありません。
なお、消費者庁Q&Aは、一人親方やフードデリバリーの配達員だけでなく、企業から訴訟代理を受託する弁護士も例として挙げています。

(2) 発注停止や報酬減額も不利益な取扱いとなる

フリーランスが公益通報をしたことを理由として、発注事業者が業務委託契約を解除し、発注量を減らし、取引を停止し、または報酬を減額することは禁止されます。

既存の公益通報規程では、まず「通報者」と「窓口利用者」の定義を見直す必要性を検討しなければなりません。フリーランスに対する不利益な取扱いとして、契約解除や発注削減、取引停止、報酬減額なども規程に加えることも要検討です。業務委託関係の終了後1年以内の者が通報できることも、規程と実際の受付体制の双方に反映させなければなりません。

(3) 規程だけでなく、契約書や案内文も見直す

窓口を利用できると規程に書くだけでは足りません。国の指針は、フリーランス本人に対する窓口の周知も求めています。
消費者庁は、業務委託に関する書面やメールに、公益通報窓口の連絡先を記載する方法を挙げています。フリーランスが定期的に閲覧するイントラネット等へ掲載する方法もあります。

業務委託関係の終了後も通報できることは、契約期間中にあらかじめ知らせておく必要はないか、検討が必要です。 改正対応として、公益通報規程に加え、業務委託契約のひな型、委託先への案内文、契約終了時の通知を一体として検証し、修正が必要ではないかを検討します。

2-4 通報妨害と通報者探索を規程と実際の運用で防ぐ

(1) 通報しない旨の誓約や、内部通報の強制は認められない

企業は、公益通報をしない旨の合意を求めたり、通報した場合に不利益な取扱いをすると告げたりして、通報を妨げてはいけません。正当な理由なく通報を妨害した場合、その合意その他の法律行為は無効となります。

たとえば、社内の不正を知った労働者に、公益通報をしない旨の誓約書を書かせるなどです。内部窓口や行政機関等へ通報しないことを、退職金支給の条件とすることも通報妨害です。また消費者庁は、外部通報の前に必ず内部通報をしなければならないという規定を設けることも、法律の趣旨に反すると説明しています。

(2) 秘密保持条項は内容に即した確認が必要

なお、一般的な秘密保持条項が、公益通報者保護法と抵触するわけではありません。しかし、退職合意書、労働紛争の和解契約、秘密保持誓約書などが、行政機関等への公益通報まで禁止する内容になっていないかは確認が必要です。

消費者庁は、裁判上の和解で合意された守秘義務条項が一律に違法・無効になる可能性は高くないとしつつ、通報妨害に当たるかは個別具体的に判断されるとQ&Aで述べています。条項が公益通報を断念させる内容や使われ方になっていないかには、注意が必要です。

(3) 調査と通報者探しを区別する

今回の改正において、正当な理由なく公益通報者を特定しようとする行為も、事業者に対して直接に禁止されました(改正前の公益通報者保護法においては、通報者の探索を行うことを「防止する措置」が求められており、いわば間接的な抑止が図られていました。)。

消費者庁の公表内容によれば、通報した可能性のある社員に通報したかどうかを尋ねることや、通報者を特定する目的で社員の端末やサーバーを調べることは、通報者探索に該当し得ます。別の調査目的を表面上掲げていても、実際には通報者を探す目的でアンケートなどを行っていれば、違法な通報者探索となり得ます。

通報者が誰であるかを探る行為と、通報内容を調査する行為は区別しなければなりません。たとえば、匿名通報について、不正を知った経緯を確認しなければ調査や是正ができない場合には、守秘義務を負う従事者において必要な質問をすることができます。また、通報対象事実を是正するための調査を行い、その過程で結果的に通報者が判明することまで禁止されるわけではありません。

そのため調査には慎重な計画が必要です。調査を始める前に、その目的、必要性、対象とする情報、情報を扱う者の範囲を整理し、記録に残すことが重要といえます。調査目的が後から検証できなければ、正当な事実調査であったのか、通報者探しであったのかを説明できません。

第3 2026年12月の施行までに企業が進めるべきこと

この章では、以上の改正内容を、施行までに行う作業の順序に沿って整理していきます。既存の制度がある企業は、次の順序で現在の規程と運用を確認すれば、自社で修正できる部分と、専門家の確認が必要な部分を切り分けやすくなります。

3-1 公益通報規程と関連書式を見直す

まず、公益通報規程の利用対象者を確認します。フリーランスと、業務委託終了後1年以内の者が含まれているでしょうか。さらに、契約解除、発注削減、取引停止、報酬減額などを、フリーランスに対する不利益な取扱いとして規程に加えることを検討してください。

通報妨害、通報者探索、範囲外共有の禁止と、違反者に対する措置も必要です。外部通報の前に内部通報を義務付ける規定や、行政機関等への公益通報まで妨げる秘密保持条項がないかについては、公益通報規程だけでなく、退職合意書、秘密保持誓約書、労働紛争の和解書式についても確認が必要です。

そして、フリーランスに窓口を知らせるため、業務委託契約のひな型、委託先への案内文、契約終了時の通知の作成または修正を検討しましょう。

3-2 対象者に応じた周知と研修を行う

従業員やフリーランスへの周知文には、窓口の連絡先だけでなく、通報後の流れや、通報者を保護する仕組みも記載した方が良いでしょう。通報を誰が扱うのか、調査結果が通知されるのかということも、利用者にとって重要な情報です。

また、従業員、派遣労働者、役員、退職者、フリーランスでは、普段接する媒体が異なります。同じ案内をイントラネットへ一度掲載するだけでは、必要な人に届きません。

研修の内容も、対象者によって変える必要があるかもしれません。公益通報を受け付ける従事者には、受付から是正までの実務を教えます。管理職には、部下から相談を受けたときの対応と禁止行為を教えます。一般従業員には、利用できる窓口と通報者保護の仕組みを伝えることになるでしょう。

第4 自社で対応できることと、外部支援が有効な場面

4-1 既存の制度がある企業は、現在の運用との差分確認から始められる

既に公益通報規程と通報窓口がある企業では、制度を一から作り直す必要はないでしょう。まずは、現在の規程と実際の運用を確認します。そのうえで、フリーランス、通報妨害など、法や法定指針の改正で不足する部分を追加的に修正します。

そして、規程に書かれた仕組みが、実際に利用できる状態になっているかを確認します。フリーランスを利用対象者に追加しても、本人に窓口が知らされていなければ利用できません。通報妨害や通報者探索を禁止しても、最初に相談を受ける管理職がその内容を知らなければ、口止めや通報者探しが起きるおそれがあります。
つまり、規程と実際の運用を照らし合わせることで、改正対応として不足している部分が見えてきます。

4-2 外部通報窓口は、独立性と匿名性を確保する選択肢となる

社内だけで複数の通報ルートを用意することが難しい場合は、弁護士等による外部通報窓口を設ける方法があります。もちろん、外部窓口を置くだけで法令対応が終わるわけではありません。しかし、経営者や幹部が関係する通報について独立性を確保し、匿名性を維持しながら会社との間で必要な確認を行うためには、有効な方法です。

外部窓口を設ける場合は、社内担当者との役割分担を決めます。通報者情報を会社へ伝える条件、緊急時の連絡方法、誰が調査を行うのか、結果を誰が通知するのかも、規程または運用手順に定めておきます。

4-3 専門的な判断が必要な部分に外部支援を利用する

改正対応のすべてを、弁護士事務所に依頼しなければならないわけではありません。ただし、経営者が通報の対象となる場合、匿名性を維持した事実調査を行う必要がある場合などについては、個別の事情に応じた判断が必要です。

自社で規程や周知文を改定し、判断の難しい部分だけ、外部の弁護士に確認してもらう方法もあります。反対に、社内に担当者を置く余裕がなければ、規程改定、窓口設計、研修、外部通報窓口の運営まで、まとめて依頼することもできます。
企業の規模と現在の体制に応じて、必要な範囲を選択しましょう。

第5 池辺法律事務所の公益通報制度構築・外部通報窓口サービス

5-1 必要な部分だけの確認から、制度全体の構築まで対応します

池辺法律事務所では、既存の公益通報規程が、改正法・改正指針に対応しているか確認しています。また、規程の作成・改定、通報窓口の設計、公益通報対応業務従事者の研修、従業員等への周知、弁護士による外部通報窓口の運営にも対応しています。

既存の制度を生かして、不足する部分だけを見直すこともできます。制度全体を新たに構築することも可能です。

5-2 制度構築の経験があります

当事務所は、公益通報制度の構築・運用を支援した経験もあります。この事案では、規程案を作成しただけでなく、担当部署との協議、担当者研修、職員への周知まで、一連の対応を行いました。

既存の制度が2026年改正法・改正指針に対応しているか確認したい、公益通報窓口の独立性や運用に課題がある、外部通報窓口を設置したいといったご相談をお受けしています。

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